YOKAI (妖怪) in New York 第21話 ベルヴェデーレ城とエッシャー、イチロー

YOKAI (妖怪) in New York
第21話 ベルヴェデーレ城とエッシャー、イチロー

 「セントラルパークへ散歩に行った折、同じ所へ出てしまったり公園の外に出られなくなったりしていたことがあった」と僕のゼミの女子学生に言われた。彼女は父親がニューヨーク勤めだからこれまで数回はニューヨ―クへ行っている。僕もこれまでの文でも書いているが同じように迷ったことがよくあった。まるでキツネかタヌキにつままれたような気持だった。途中で自分は東へ行っているのか北なのかも分からなくなってしまう。
 そんなふうに迷ったことがあった後でセントラルパークを歩いていて、ふと「この公園に最もふさわしい画家を選ぶとすると誰だろうか」と考えてみた。人間の感覚を騙す公園、これは階段を上がっているつもりが、下がっていたり、流れる水がよく見ると何故か上に流れてまた同じ所へ戻ってしまう絵を描くエッシャーに似ているのではと思った。

エッシャー「物見の塔」
 ところで先日、名古屋市美術館で催されている『だまし絵』展へ出掛けた。そこに出品されているエッシャーの作品を見てびっくりした。
写真右:エッシャー作「物見の塔」(Belvedere)
絵を見てびっくりしたのではない。僕がびっくりしたのは絵についたタイトル「物見の塔」(Belvedere)だ。絵自体は50年以上前からよく知っている。2階と3階の建物がねじれ2階が東西に長い長方形だとすると3階は南北に長い長方形になっている。エッシャー特有の目の錯覚を利用した幾何学的な不合理を描いた作品だ。作品は幾度となく見ているのだがタイトル名ベルヴェデーレ (Belvedere)を確認していなかったのだ。


 実はセントラルパークにはベルヴェデーレ城というこの作品に描かれた建物とよく似たゴシック調の可愛い城のような建物があるのだ。写真左:セントラルパーク中央付近にあるベルヴェデーレ城
 ベルヴェデーレというのは展望台、見晴台という意味だが、さらに本来の意味はベル=美しい、ヴェデーレ=見ること、景色、なので、この名がつく場所はヨーロッパのあちこちにある。オーストリア、ウィーンには豪華なベルヴェデーレ宮殿もあるが、セントラルパークの城が一番エッシャーの絵に似ている。1867年に展望台ができ、1872年に城の原型らしき建物が作られている。
 エッシャーがこの城の絵を描いたのは1958年だが、彼がアメリカに行ったのは1960年だ。彼はこの城を古澤明言うところの量子テレポーテーションで見たのだろうか。視覚の魔術師とも言われるエッシャーを絵の世界では「妖怪エッシャー」と呼ぶ者もいる。見る者の視覚を狂わせ、その不思議の世界へと引きずり込んでしまうからだろう。

噴水の前で記念撮影
 この城はセントラルパークの中央付近にある噴水の少し西側の小高い丘の上に立っている。建てられた当初は一番高い場所でよく目につく場所だったらしいが、木々がどんどん生い茂り見つけにくくなったため、ここへやってくる人はあまりいない。だから古めかしい外観もあいまってまるで隠れ家のようだ。ほとんどの人が噴水付近で記念写真を撮るか休憩した後、メトロポリタン美術館のある方向に流れてしまう。僕も最初の数回は西側を見ることもなく、どうなっているか考えることもなく東へ向かっていた。何故だろうか。
写真右上:セントラルパークの中央にある噴水

 どうもこれらのだまし絵的な作りはアメリカ造園界の父と言われるオルムステッドがやったことらしい。セントラルパークにはなんと97kmの小道があるという。迷ったら出られないわけだ。それ故この公園は毎日散歩していても見知らぬ道に出るとも言われている。オルムステッドはアメリカで作られた最初の公園であるイエローストン国立公園やナイアガラの滝も設計しており、見学者がよろこぶことが出来るように設計に工夫を加えたという。特に見学コースに曲線を多く取り入れ自然らしさを強調しているという。オルムステッドは建築家のヴォークスとともにこのベルヴェデーレ城を作っている。彼等もエッシャーと同様、人を不思議の世界に引き寄せるのが好きなのかもしれない。

ランブル (300x300)
 またこの城の付近はランブル(森や田舎道の散歩を意味する言葉)と言われ、セントラルパークの中でも一番の迷路スポットであるという。細い道がくねくねと続き、岩山や林、池、小川もあって分かりにくいこともあって前述したようにあまり人が近付かないという。
写真左:イチローの散歩道であるランブルエリア
 ニューヨークヤンキースに移籍してニューヨークに移り住んだイチローの弓子夫人はこのことに気付いて、住居をここから一番近くの高層ビルのマンションに移したという。イチローが人知れず散歩したり精神を癒したりできる場所を考えたかららしい。セントラルパーク妖怪はイチローまで引き寄せている。

ベルヴェデーレのトルソー
 ベルヴェデーレ宮殿はバチカン美術館の中にもあり、その中庭にはギリシア彫刻が置かれている。教皇ユリウス3世がコレクションしたのが始まりでその中にベルヴェデーレのトルソーと名付けられた彫刻がある。
写真右:ベルヴェデーレのトルソー
屈強な男が動物の毛皮を敷いて岩の上に腰掛けるトルソーだ。腰の部分しか残っていないが画家や彫刻家が手本にするぐらいの迫力がある。

 この彫刻にはミケランジエロも感銘を受けたらしく、システィーナ礼拝堂にある「最後の審判」(写真下左)のキリスト像のすぐ右下に描かれたイエスの12使徒の一人であるバルトロマイは、正しくベルヴェデーレのトルソーを描き写している。皮剥ぎの刑で亡くなったと言われるバルトロマイの手には、不気味なおぞましい生皮の妖怪か、幽霊のような亡骸がぶら下がっている。(写真下右)その顔はミケランジエロ自身だと言われている。ミケランジェロも妖怪に乗り移られているようだ。

最後の審判 生皮を持つ聖バルトロマイ 
写真左:ミケランジェロ作「最後の審判」
写真右:生皮を持つ聖バルトロマイ、最後の審判部分


エッシャー「邂逅」
 ベルヴェデーレ城からエッシャー、オルムステッド、イチロー、ミケランジェロと人間の視覚を欺いたり、人間の限界に挑戦する妖怪のようだが、我々を大いに楽しませてくれる人物が繋がってきた。ちなみにエッシャーの絵には人間がだんだん妖怪になっていく作品もある。

写真右:エッシャー作「邂逅」人がだんだんと妖怪になる図


<ニューヨークの妖怪シリーズ>

 さて今回も上記の話に因んだ僕のオリジナル妖怪画を紹介したい。

㉑ 『妖怪 ベルヴェデーレ城』

妖怪ベルヴェデーレ城

 セントラルパークのベルヴェデーレ城は迷路のようなランブル地区の近くにあり、さらに隠れ家のように木々の中に隠れている。それだけでも妖怪の居城といった雰囲気があるが、さらにエッシャーの絵「物見の塔」は見る者を摩訶不思議な世界へと誘い込む。
僕の今回の妖怪の絵ではベルヴェデーレ城自体をエッシャーの絵よりちょっと楽しげな妖怪にしたててみた。

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プロフィール

絵描きの山彊

Author:絵描きの山彊
山田彊一プロフィール
1964「ニューヨーク,日本人アーティスト14人展(最年少で選抜される。脇田和氏らと) 
1967 第6回シェル美術展(佳作賞)
1981 第3回中日美術展(大賞)
1982 第4回エンバ美術賞展(優秀賞)
1983 第5回宇部絵画トリエンナーレ展(優秀賞)
1984 第5回大阪現代版画コンクール展(優秀賞)
1985 第1回和歌山版画ビエンナーレ展(大賞)
1986 第2回IBM絵画コンクール(大賞)
1989 第11回エンバ美術賞展(準大賞)
1995 第1回中国・北京現代展(優秀賞)
1997 第8回大阪トリエンナーレ展(特別賞)
<著書>
『そして地獄・そして芸術』(ギャラリー安里)
『中学が爆発する』(風媒社)
『きしめん紳士が行く』(風媒社)
『ナゴ・ナラ』(アドア出版)
『おもしろ老後生活術』(黎明書房)
『ピカソはやっぱり名古屋人』(アドア出版)
『僕らにできる教育革命』(アドア出版)
『名古屋力 アート編』(ワイズ出版)  
『名古屋力 妖怪篇』(ワイズ出版) 
『妖怪インニューヨーク』(ワイズ出版)等                   

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