YOKAI (妖怪) in New York 第9話 ウォール街を浮遊跋扈する妖怪

YOKAI (妖怪) in New York
第9話 ウォール街を浮遊跋扈する妖怪


20年前に訪れたウォール街
 僕の同僚であったモダンダンスの先生は若い頃、ダンスの講習を受けるべくニューヨークへ出掛けたそうだ。1980年代の後半だったという。ケネディ空港から仲間とバスに乗りブルックリン橋を越えた。当時独身であった彼女はニューヨークへ行くにあたって、周囲の人から「マンハッタンでは気を付けなさい。人々は妖怪のように恐ろしいですよ」と脅され緊張していた。
 バスがウォール街を過ぎた頃、突然空から人が降ってきてバスのすぐ前に落ちた。突然のことで自分も仲間たちも蒼白になったが、落ちたところが反対車線であったので、バスの運転手は一瞬止まるが、すぐに何事もなかったようにそのまま通り過ぎた。嘘のような話だが、本当だそうだ。どうも高いビルからの飛び降り自殺か何かのようだ。この折の運転手の態度からしてこのようなことは時々起ることらしい。バスに乗っていた日本人たちは、普通の人間が住む社会とは思われないエリアに入り込んだような気分になったに違いないと彼女は言う。
写真右上:20年程前にウォール街で僕が撮った写真

 この事件や日本を発つ前の忠告も思い出して、夜になると同部屋になった日本人3人は何が起こるか分からないから、入り口のドアに2重ロックを掛け、荷物はまとめ自分等から離し部屋の隅に重ねておいた。ギャングか妖怪が侵入した場合、お金やパスポート類を、日中街中を歩くように体に巻き付けていると、入った賊がついでに彼女たちの体も奪っていくことを恐れたから遠くに置いたのだという。さすが大和撫子!彼女らのこれから10日ほどの定宿になるこのホテルは、『ゴーストバスターズ』の映画に出てきそうな雰囲気の古びた安ホテルだった。けれど3人は若く元気溌剌、洗面所から聞こえるかすかなうめきのような音を「妖怪かしら?」「それなら妖怪バスターの3人を呼べるわね」という冗談も言えるほど陽気だった。しばらくすると彼女らは喋り疲れて、そのまま皆寝込んでしまったようだ。
 真夜中、今度は洗面所でなくドアの方でかすかな音がした。ドアの2重ロックと内鍵があったはずだが簡単に開けられ賊が侵入したのだ。仲間は寝たらしいが彼女は憧れのニューヨークへ来たことで寝られずにいたという。そんな中、簡単にドアの鍵を外す音がして賊が入ってきたのだ。ドアの開く音とともに自分の体は硬直してしまい、息を殺していた。賊は荷物の中の財布や金めのものを盗むと、寝ている彼女らに近付くこともなく去っていった。その賊が廊下へ出てドアを閉めると同時に彼女は「ドロボー!」と大声で叫んだという。驚いたことに他の二人の仲間も自分と同じようにベッドから飛び起き「ドロボー!」と叫んだ。みな同じように興奮して寝付けなかったようなのだが、賊が部屋の中にいる間は怖くて声も出なかったのだ。(3人が揃って叫んだのだが「ドロボー!」だったか「ギャングだ!」か「助けて!」なのか思い出せないそうだ)。このコソ泥、どうもボーイかホテル関係の者の手引きで入ったらしく捕まることはなかったらしい。

 これらの話を僕は彼女から事前に聞いていたので、今回ニューヨークへ出掛ける前、少し調べてみた。特にビルからの飛び降りが気になった。人間が降ってきたのはウォール街のあたりということだったが、いくら何でも今はもうないだろうと思った。だが今も変わらずすごかった。調べ始めたのが僕のニューヨーク行き(2014年5月)の2か月ほど前。そのすぐ後の3月6日にマンハッタンで仕事をするトップクラスの弁護士(45歳)がウォール街近くのビルの12階から飛び降り自殺をし、3月12日には投資銀行家がイーストサイドのビルから飛び降りている。今年になって投資家の飛び降りは7人目だという。そして続く自殺は3月19日に元モルガン投資のアナリストだった銀行家(28歳)がマンハッタンのビルから飛び降りている。この時はもう7人から相当増えていたとも言う。裏のヤバイ話によるとこれ等の自殺、半数以上が自殺に見せかけた他殺であるとか。
 投資関連の自殺に関するこれまでのデータを見ると、男性の方が女性より4倍多く、白人は、黒人の3倍、ヒスパニックやアジア系の2倍の多さだとか。白人の中でも年齢は50歳以上の者が多いそうだ。
世界金融の中心、ウォール街は一攫千金を夢見る野望渦巻く男たちの壮絶な戦場だと言われている。一攫千金に失敗したら、地獄が待っている。そのため「ウォール街は死の落とし穴」などとささやかされている。だが自殺者が多いと知っても男たちの闘争本能はそれを越え、若者は次々と相場師になりたがる。平均的に見ても一般サラリーマンの3倍の年俸という魅力にも引かれるのだろう。金融バブルを経た今でも自殺等が多いのは人間の本性が昔も今も変わらないことを示唆している。自殺者は金の亡者となって今もウォール街を彷徨っている。アメリカ20世紀後半の妖怪は「ウォール街浮遊妖怪」だ。

ゴードン・ゲッコ―
 投資銀行家の怖さは映画『ウォール街』でよく知られる。マイケル・ダグラスが1987年、この映画でアカデミー主演男優賞に輝き、米国人でこの映画を知らない者はいないと言われる代表作だ。マネー戦争をこれだけリアルに描いた作品は他にない。
写真左:マイケル・ダグラス演じるゴードン・ゲッコー

壁に飾られた妖怪のような絵画
 僕がこの映画の中で強く印象に残っているのは堂々たる演技を見せるダグラスと、彼が演じるところの投資家ゴードン・ゲッコーに憧れ近付いた青年投資銀行家のバドが、ゲッコーの愛人と生活するマンションの部屋に飾られた絵画であった。
写真右上:部屋の壁に飾られた妖怪を思わせるアート
 この絵画はこの『ウォール街』のすべてを表しているような表現主義的技法で描かれた力作だった。妖怪人間が4人描かれている100号大の作品だ。銀行投資家の野望が感じられるような絵だ。ここにきれいな優しい感じの花の絵などが飾ってあったら、やる気を失くしてしまうだろう。その他各所に飾られている絵もみな同じ趣旨のモダンアートだった。背景の絵にまで手をゆるめないこだわりがこの映画作品には感じられた。

 日本人は部屋に飾る芸術作品をその場と調和する装飾品として配置するが、アメリカ人は生活に刺激を与え、生きるエネルギーを得られるよう絵画を使っている。絵画を嫌な人生から逃げ込む癒しのためのインテリアの一部にすることなく、チャレンジをさせるような展示は、この『ウォール街』の背景として映画の内容によくマッチしている。

ニューヨーク夜景

 この映画を見ていると、ここの住人はこのまま人生を突き進むか、疲れてビルから飛び降りるかの選択を迫られているように感じられる。それだけビルの部屋から見る夜景は活力と虚無が交互し、不思議な美しさで迫る。
写真上:高層ビルから見るニューヨークの夜景

夕日に浮かぶブルックリン橋
 映画の画面にはよくブルックリン橋の光景が写される。写真右:夕日に浮かぶブルックリン橋
 この橋を挟んで西側のブルックリンは人間界で、反対のマンハッタン側は金銭欲に縛られた妖怪の住処になっているように僕には思える。相場師と幽霊(妖怪)は姿が見えたらおしまいとも言われるから、目に見えない金の亡者の妖怪=相場師がウォール街を跋扈しているわけだ。
 ちなみに当地の『週刊NY生活』誌によると、米国民の34%が幽霊を信じ、23%が幽霊を見たり体で感じたりしているという。



<ニューヨークの妖怪シリーズ>

 さて今回も上記の話に因んだ僕のオリジナル妖怪画を紹介したい。今回はウォール街に巣食う金の亡者、『ウォール街浮遊妖怪』これを紹介したい。

⑪ 『ウォール街浮遊妖怪』

ウォール街浮遊妖怪


 ウォール街には飛び降り自殺した投資家や証券アナリストといったいわゆる相場師の霊が多く浮遊していると思われる。尽きることのない金銭欲の果てに膨大な額のお金を失って死以外の選択がなかった人々だろう。暗い話なので風船を使ってちょっとコミカルに描いてみた。
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プロフィール

絵描きの山彊

Author:絵描きの山彊
山田彊一プロフィール
1964「ニューヨーク,日本人アーティスト14人展(最年少で選抜される。脇田和氏らと) 
1967 第6回シェル美術展(佳作賞)
1981 第3回中日美術展(大賞)
1982 第4回エンバ美術賞展(優秀賞)
1983 第5回宇部絵画トリエンナーレ展(優秀賞)
1984 第5回大阪現代版画コンクール展(優秀賞)
1985 第1回和歌山版画ビエンナーレ展(大賞)
1986 第2回IBM絵画コンクール(大賞)
1989 第11回エンバ美術賞展(準大賞)
1995 第1回中国・北京現代展(優秀賞)
1997 第8回大阪トリエンナーレ展(特別賞)
<著書>
『そして地獄・そして芸術』(ギャラリー安里)
『中学が爆発する』(風媒社)
『きしめん紳士が行く』(風媒社)
『ナゴ・ナラ』(アドア出版)
『おもしろ老後生活術』(黎明書房)
『ピカソはやっぱり名古屋人』(アドア出版)
『僕らにできる教育革命』(アドア出版)
『名古屋力 アート編』(ワイズ出版)  
『名古屋力 妖怪篇』(ワイズ出版) 
『妖怪インニューヨーク』(ワイズ出版)等                   

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