YOKAI (妖怪) in New York 第8話 マーク・トウェインと妖怪

YOKAI (妖怪) in New York
第8話 マーク・トウェインと妖怪

 大都会ニューヨークは摩天楼のビル群と人間が共生する街、最近ここにはどんな妖怪が住んでいるのだろう?かつてのニューヨークは人種のるつぼであり多発する犯罪の温床のような煩雑な街のイメージがあった。けれどジュリアーニ元市長が地下鉄をきれいにし、犯罪発生率を60%削減し、水道水も数百キロ先の水源から取り入れ、全米一の美味しい水道水にしてしまった。だから暗く陰湿なところを好む妖怪は住みづらくなったのではないだろうか。しかしその代わりに古き良き時代の妖怪が戻ってきているのではないか。


 アメリカ文学に詳しい教え子に言われた。「ポー妖怪を出すならトウェイン妖怪も登場させるべきです」と。19世紀前半がポーなら後半を代表する作家はトウェインだ。二人の文学的傾向は正反対のように思われるが、二人ともグリニッジビレッジに住んだことがあり、トウェインも結構奇怪で妖怪的な人生を送っている。写真右:マーク・トウェイン

 ハレー彗星がやって来た1835年に生まれた彼は、「自分はハレー彗星とともに地球にやってきたので、ハレー彗星と共に去っていくだろう」と周囲の人間に吹聴しており、その通りになんとハレー彗星が現れた日に亡くなった。彼をハレー彗星妖怪と命名してもいいくらいだ。次のハレー彗星到着の折、彼が地球に戻ってきて復活したら面白い。この彗星は人間の寿命とほぼ同じ長さでやってくる回転周期を持ち、妖忌な存在と考えられていた。天文学が進んでいた古代メキシコでは、ハレー彗星はシアン汚毒をばらまくとも言われ、それらの対処法で「処女を生贄にすれば助かる」とまことしやかに占い師が語ったから、暴徒が女性を襲う事件まで起きたという。

 またトウェインの弟は船の爆発事故で亡くなるが、トウェインは1か月も前にそのシーンとそれに続く葬式のシーンを夢で見て、母親にそのことを話していたという。この事故ではたくさんの人が同時に亡くなっているから棺桶は役所が揃えた木製であったが、街中の人に好かれていた弟は人々の寄付で高額な金属製になっていたそうだ。トウェインが見た夢では、弟の遺体の周りには白いたくさんの花があり、その中に1本だけ色違いの花が混ざっていた。現実の葬式では白い花ばかりだったので、夢が当たらなかったと思っていると、式が始まってすぐ、年配の婦人が大きな花束を抱かえてきて亡骸の上にそっと置いた。なんとその中に1本だけ真紅の薔薇があったというのだ。これでトウェインの夢がすべて当たったことになる。事前に話を聞いていた母は、トウェインの夢があまりに的中したものだからかえって怖くなったようだ。自分の死や弟の死を予見できる彼は未来を透視できる妖怪といってもいいかもしれない。

小豆あらい
 日本にも未来を予測できる妖怪がいる。『小豆あらい』だ。(写真左)水辺の決まった場所で夜になると豆を洗うようなザクザクという音を出すという。この妖怪は未来を予測できて来年の作物の出来不出来も分かり、またこれから流行るだろう病や、戦争がいつ起きるかも予言し、人々に教えるという。そのため妖怪ではあるが、人々に好かれているという。マーク・トウェインもマンハッタン、グリニッジビレッジ付近に彼の名前の付いた高校やホテル、レストラン等がある。きっと彼も小豆あらいのように街の人々から愛されていたのだろう。

 彼の死の7年後面白いことが起こっている。エミリー・グラント・ハッチングスという名の女性がトウェインの霊と交信して口述筆記で書いたという『ジャップ・ヘロン』という小説を出版した。この発想の面白さに飛びついた編集者によって彼女の原稿は、大きな出版社から発刊された。だが、妖怪トウェインとのコンタクトに成功したという宣伝文句につられた出版社は、よく内容をチェックしなかったようだ。結局、この本の内容があまりにお粗末だったことからトウェインの作ではないということになり、これを出版したハーパー&ブラーザーズ社は社のイメージを損なったとして彼女に損害賠償を求め裁判所に提訴したという。
エミリー・グラント・ハッチングス
 彼女の名前である『エミリー・グラント・ハッチングス』は夜に咲く熱帯性の真っ赤な睡蓮の花(写真右)の名でもあり、冥途の入り口で見られそうな花の名であるのは面白い。彼女はトウェインの霊と冥途の途中で出会い、恋に落ちてこの世に戻り、彼に代わって本を書いたと思わせたかったのかもしれない。
 
 またトウェインは機知にあふれた妖怪らしい名言集でもよく知られている。「アダムはリンゴが欲しかったから食べたのではない。禁じられているから食べたのだ」とか「生涯をアメリカ合衆国の大統領として過ごすよりも、1年間でいいからシャーウッドの森で山賊をやりたい」などだ。人間くさいものでは「禁煙なんて簡単さ。私はもう何千回もやめてきたのだから」(Quitting smoking is easy. I’ve done it a thousand times.)これなどは思わず笑ってしまう人を食ったものだ。
 マンハッタンでは全面が金色のガラスに囲まれたビルに住み、毎週のようにパーティを開き、ついには借金地獄となって逃げだしている。彼の親もその昔破産し、子供を連れて逃げたことがある。これも彼の妖怪的な一面を物語るエピソードだろう。

蒸気船マーク・トウェイン号
 「先生、どうして東京ディズニーランドにはアメリカ川を一周するマーク・トウェイン号という蒸気船があるの?」、いつもデート先はここだという女子学生に言われた。写真左:ディズニーランドにあるマーク・トウェイン号
 トウェインは蒸気船の水先案内人をしていたこともある。彼のペンネーム、マーク・トウェインは川を蒸気船が航行する際の測深手の水先案内人への合図“by the mark, twain” から採ったものだ。twainは「水深二尋」と訳され、これは蒸気船が座礁せず安全に通航できる限界の浅さを示している。
トムソーヤの冒険
 『トム・ソーヤの冒険』(写真右)は彼が幼い頃、ミシシッピー川やその周りで黒人奴隷の子供と遊んだ冒険話がもとになっている。









ウェーブヒル
 最後に付け加えると、トウェインはニューヨークのブロンクスにある「ウェーブ・ヒル・ハウス」にも住んでいる。ここは、全くニューヨークと雰囲気が違うところ。摩天楼が襲いかかることもなく、丘の上にあって雄大なハドソン川と対岸にはきれいなニュージャージーの緑が見える。写真左:ブロンクスにある「ウェーブ・ヒル」
元富豪の庭だったというが、妖怪トウェインもたまにはのんびり人間の世界に戻りたかったのだろうか。この公園は土曜日が無料という。ニューヨークの喧騒と妖怪話に飽きたら彼のようにここへ行ってみるのもいいかも。



<ニューヨークの妖怪シリーズ>

 さて今回も上記の話に因んだ僕のオリジナル妖怪画を紹介したい。今回はマーク・トウェインがハレー彗星妖怪ということで名付けて妖怪『ハレー・トウェイン』、これを紹介したい。

妖怪「ハレー・トウェイン」
⑩ 妖怪『ハレー・トウェイン』



 『トム・ソーヤの冒険』という子供の好きそうな物語にあった妖怪顔にし、それにハレー彗星の長い尾を付け、その絵柄は星条旗にしてみた。
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プロフィール

絵描きの山彊

Author:絵描きの山彊
山田彊一プロフィール
1964「ニューヨーク,日本人アーティスト14人展(最年少で選抜される。脇田和氏らと) 
1967 第6回シェル美術展(佳作賞)
1981 第3回中日美術展(大賞)
1982 第4回エンバ美術賞展(優秀賞)
1983 第5回宇部絵画トリエンナーレ展(優秀賞)
1984 第5回大阪現代版画コンクール展(優秀賞)
1985 第1回和歌山版画ビエンナーレ展(大賞)
1986 第2回IBM絵画コンクール(大賞)
1989 第11回エンバ美術賞展(準大賞)
1995 第1回中国・北京現代展(優秀賞)
1997 第8回大阪トリエンナーレ展(特別賞)
<著書>
『そして地獄・そして芸術』(ギャラリー安里)
『中学が爆発する』(風媒社)
『きしめん紳士が行く』(風媒社)
『ナゴ・ナラ』(アドア出版)
『おもしろ老後生活術』(黎明書房)
『ピカソはやっぱり名古屋人』(アドア出版)
『僕らにできる教育革命』(アドア出版)
『名古屋力 アート編』(ワイズ出版)  
『名古屋力 妖怪篇』(ワイズ出版) 
『妖怪インニューヨーク』(ワイズ出版)等                   

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