奈良の古刹『元興寺』と現代美術 

奈良の古刹『元興寺』と現代美術 

涼しい風が入る本堂
 僕はこれまで幾たびも奈良を訪れているが、ほとんどは同行者に観光案内するのが目的で、そのため訪問地の多くは東大寺や興福寺、それに唐招提寺と近くの薬師寺に絞られていた。今回の奈良旅行は孫たちの運転手役だから向こうに着いてからは親に任せ、特に同一行動をとることもなく、のんびりただ一人で今まで訪れたことのない寺に行ってみた。蝉の声がやかましい真夏はお寺見学にそぐはないと思っていたが、どうしてどうしてこれが非常に快適であることに気付いた。天井が高くオープンな間取りの寺は風の通りがよく、どこに座っても快適だ。蝉の声がエヤコンのモーター音のように感じられる。写真右上:涼しい風が入る元興寺本堂

 お寺に来て数時間も留まるなんて大学時代のゼミ研修旅行以外なかった。その時は学生数人だったが今回は一人。一人になると心が冴え、寺の持つ趣がしっかり把握できる。僕は一緒の人がいると、どうすると喜んでもらえるか、安全に過ごしてもらえるかといったサービス精神が最優先になり、寺が本来持っている歴史の重みや雰囲気なんて頭に入らなくなる。今回はそんな雑念なしで一人で寺めぐりができた。その中の1つの寺についてちょっと書いてみたい。

元興寺の看板と土塀
 興福寺から坂を下り、奈良ホテルから5分ほどの所に元興寺がある。写真左:元興寺の看板と土塀
 この寺はさほど大きくはないが718年に名を法興寺からいまの元興寺に改めたというから相当古いことが分かる。東大寺の創建が745年だからそれより古いわけだ。あまり人が寄らない寺なのに国宝や重文の遺物は多い。さすが奈良だ。名古屋にあったら徳川美術館と並ぶ2大観光名所になるのではないか。前述した4つのお寺はスケールが大きく有名だから訪問者が多すぎて、細やかな趣を感じる余裕が無いが、この寺はみる者をいにしえの時にごく自然にいざなってくれる。

石塔の脇に咲く花カエル石
 写真左::石塔の脇に咲く花        写真右:淀殿が愛したというカエル石
 石塔の近くに雑草に近い花が数本咲いていたが、それも寺の僧侶が意識して抜いていない感じ。また崩れた土塀も御影石やセメントに取り換えることができるのに、それがわざと施されていない。淀殿に愛されたという2m程のカエルに似た巨石も庭にみられ、急に戦国時代にタイムスリップした気分にさせられたりと見物人を飽きさせない。この話からは、この寺が戦国時代にもさびれることなく現代まで連綿と引き継がれてきたことがうかがえる。

裏庭の歓喜仏
 宿坊の裏の際には30センチ程の小さな石仏らしきものがあり、近づいて見るとなんとこれが寝ころんだ女体で艶めかしい。よく見ると顔は邪鬼のようだ。これはヒマラヤ・チベットの密教寺院へ行くとわんさと見られる曼荼羅の図柄と同じだ。奈良の古刹にはおかれるものとしては違和感がある。今の住職の遊び心で置かれたものだと思われるが、こんなものが置かれているのもまたある意味で愉快だ。写真右:僧坊の裏庭におかれた歓喜仏

 現代美術の目で見ても面白い。線香を立てるさく容器にたまった灰がならされた表面は今、豊橋の美術館で開催中のフォートリエ展に出されている抽象作品に見えるし、漆喰の白色がはがれかけた格子柄の壁はヴァザルリーやステラの構成的抽象画よりよっぽど魅力的だ。
固められた線香の灰フォートリエ作の抽象絵画
写真左:固められた線香の灰が現代美術のよう  写真右:フォートリエ作の抽象絵画

格子柄の壁ヴァザルリー作の抽象絵画
写真左:寺内の格子柄の壁       写真右:ヴァザルリー作の抽象絵画

聖徳太子像重文
 また薄汚れた聖徳太子像の顔など奈良美智の描く人物像と同じぐらいの魅力がある。
写真右:聖徳太子像 顔部分 重文

 夏に奈良へ来る日本人は少なく、出会う半数以上が中国人であった。しかも真剣に仏像に見入っている人もいる。仏教文化は中国を通して日本に伝わったのに、何故奈良へやってくるのか、また真剣に仏像を観察するのか不思議に思われる。でも考えてみると僕が雪舟研究のため幾回も中国の寺を訪れているのと似ているのかもしれない。中国には仏像が残ってない。例の文化大革命でほとんどの仏像が破壊されてしまったのだ。今、必死に創り直してはいるが金ぴかの新品で、同じ形式の仏像ばかりだ。彼らは自分たちのルーツを求めて逆に日本へ確認に来ているとすると彼らの行動も納得できる。いま中国では猛烈にキリスト教信者が増え、アメリカの信者数を抜くかもと言われている。この現象は日本のような趣のある古い仏像がないのも一因なのかもしれない。日本人は無宗教の人が多いと言われているが、古都のなにげない寺で心が洗われ、癒される感覚は多くの人が持っていると思われる。そのDNAが我々日本人の宗教観をかたちづくっているのかもしれない。


スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

カウンター(since2011.1.1)
プロフィール

絵描きの山彊

Author:絵描きの山彊
山田彊一プロフィール
1964「ニューヨーク,日本人アーティスト14人展(最年少で選抜される。脇田和氏らと) 
1967 第6回シェル美術展(佳作賞)
1981 第3回中日美術展(大賞)
1982 第4回エンバ美術賞展(優秀賞)
1983 第5回宇部絵画トリエンナーレ展(優秀賞)
1984 第5回大阪現代版画コンクール展(優秀賞)
1985 第1回和歌山版画ビエンナーレ展(大賞)
1986 第2回IBM絵画コンクール(大賞)
1989 第11回エンバ美術賞展(準大賞)
1995 第1回中国・北京現代展(優秀賞)
1997 第8回大阪トリエンナーレ展(特別賞)
<著書>
『そして地獄・そして芸術』(ギャラリー安里)
『中学が爆発する』(風媒社)
『きしめん紳士が行く』(風媒社)
『ナゴ・ナラ』(アドア出版)
『おもしろ老後生活術』(黎明書房)
『ピカソはやっぱり名古屋人』(アドア出版)
『僕らにできる教育革命』(アドア出版)
『名古屋力 アート編』(ワイズ出版)  
『名古屋力 妖怪篇』(ワイズ出版) 
『妖怪インニューヨーク』(ワイズ出版)等                   

最新記事
カテゴリ
最新コメント
月別アーカイブ
最新トラックバック
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR