YOKAI (妖怪) in New York   第2話 YOKAI グランド・ゼロ

YOKAI (妖怪) in New York
第2話 YOKAI グランド・ゼロ

ニューヨークの地下鉄
 現在いるブルックリンからブルックリン橋を渡ってマンハッタン側へ戻り、グランド・ゼロを目指す。できればブルックリン橋を歩いて渡り、『1Q84』の物語のように、途中の橋脚の所から降りてリトル・ピープルの世界へ入り込めればと思ったが、これは小説の世界、無理だった。僕らは地下鉄でイーストリバーを越えた。写真右:ニューヨークの地下鉄

 10ドルのカンパをしてグランド・ゼロに立つ。僕らは現実世界にいるのだが、やはりなんとなく異世界に入ったような気分になった。小雨が降り続き仄暗い雰囲気だったこともある。周りにいる人々がひょっとするとリトル・ピープルかもしれないと思えてくる。

 村上春樹はリトル・ピープルを単にオカルト集団の民として設定したのではなく、人間のさまざまな欲望に操られる人々を想定したとも思える。このあたりは世界金融の中心ウォール街のすぐそばだ。一攫千金を夢見るブローカーたちが暗躍するこの街はある意味リトル・ピープルの世界と通じるものがあるような気がする。

 妖怪好き仲間の女性二人の目が潤んでいる。目を潤ませながら一人がバッグから袋のようなものを取り出し、何かをそっと撒いているように見えた。僕は彼女が塩をまいているのかなと思った。というのは彼女が家を新築した折に門かぶりの松を植えることを忘れ、その後、ドロボーに入られるとか嫌なことが続いたため、毎月11の日に家の周囲に塩をまくと聞いていたからだ。彼女は9.11のような悲劇が2度と起こらないように祈っているのかもしれない。でもここで塩をまくのはちょっと違うような気がしたが、力士が試合前、土俵に撒く塩のように華々しく撒かなかったから、まあいいかと思った。それをやったらコメディだ。

グランドゼロの内側の池
 二つのビルの跡地は御影石で囲まれた四角い池になっている。その中にまたもう一つ四角い堀があり、全ての水がここに流れ込んでいく。写真左:ビル群を背景にしたグランド・ゼロ
 じっと見ていると奈落の底へ吸い込まれるような気分になってくる。あの世または異世界への入り口のイメージが連想される。ここに亡者の怨念を全て流し込んでいるのだろうか。この中から無念の叫び声が聞こえてくるようだ。空気まで振動させるうなりが感じられる。

 以前ポーランドの友人がカチンの森を訪れた時のことを話してくれた。カチンの森は第二次世界大戦中、ソ連が1万人以上のポーランドの将校を惨殺し地中に埋めた所で、ソ連はナチスがやったのだと喧伝していた。この事件は巨匠アンジェイ・ワイダが映画化している。ポーランド人の彼女はこの地に立った時、足が震え、耳がつんざかれたような状態になったそうだ。同様なことがここでも起きているのかもしれない。僕と同行した仲間もうめき声が聞こえるような気がしたと言っていた。

名前の溝に差し込まれた花
 池の四方を囲む御影石の上には、亡くなった人の名が刻み込まれている。所々その刻みこまれた名前の溝に、花が差し込まれている。写真右:彫られた名前の溝に差し込まれた花
 初めて見た時は、ぎょっとした。御影石から花が咲いているように見えたからだ。人は死ぬと花を飾る。葬儀の時はたくさんの花で埋め尽くされる。だがここは石に刻まれた名前の小さな溝を利用して花が埋められているので、1本しか挿せないのだ。それが雨に寂しく濡れてけなげだった。

ダル湖
 ところでインド、スリナガルに広がるダル湖には蓮の花がたくさん咲いている。40年程前、一人シカラ(小さな手漕ぎボート)を操りこの花の中に分け入ったことがある。黄泉の世界の入り口があると言われる須弥山(ヒマラヤ連山)をバックに凛と立つ蓮の花は美しく気高く、それでいてさみしかった。写真上:須弥山をバックに、蓮で覆われたダル湖
グランド・ゼロも、バックに巨大なビル群を従え、僕にはこの池がダル湖に、一輪の花は蓮に、ビル群は須弥山に重なった。

 ここを出て地下鉄に向かう時、どういうわけか足が奈落から引っ張られているようにすごく重かった。リトル・ピープルたちがこの地を去ろうとしている僕に、「離れるな、月を見よ、2個あるだろう」と言っているようだ。全てが夢幻の世界なのか。午後の6時ごろまで僕らはいたから2つひょっとしたら2つの月が見られたかもしれなかったが、天気は小雨でそれを確認することは無理であった。


<ニューヨークの妖怪シリーズ>
 さて前回のブログから僕が創り出したニューヨークの妖怪の絵を載せさせていただいている。今回も第2話に因んだ妖怪を紹介したい。

③妖怪 グランド・ゼロのろくろ首 
 花に化けた長い首のリトル・ピープル            
グランドゼロのろくろ首  

④妖怪 口を開けて叫ぶリトルピーピル
 四角い奈落の井戸を口で現してみた。

叫ぶリトルピープル
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プロフィール

絵描きの山彊

Author:絵描きの山彊
山田彊一プロフィール
1964「ニューヨーク,日本人アーティスト14人展(最年少で選抜される。脇田和氏らと) 
1967 第6回シェル美術展(佳作賞)
1981 第3回中日美術展(大賞)
1982 第4回エンバ美術賞展(優秀賞)
1983 第5回宇部絵画トリエンナーレ展(優秀賞)
1984 第5回大阪現代版画コンクール展(優秀賞)
1985 第1回和歌山版画ビエンナーレ展(大賞)
1986 第2回IBM絵画コンクール(大賞)
1989 第11回エンバ美術賞展(準大賞)
1995 第1回中国・北京現代展(優秀賞)
1997 第8回大阪トリエンナーレ展(特別賞)
<著書>
『そして地獄・そして芸術』(ギャラリー安里)
『中学が爆発する』(風媒社)
『きしめん紳士が行く』(風媒社)
『ナゴ・ナラ』(アドア出版)
『おもしろ老後生活術』(黎明書房)
『ピカソはやっぱり名古屋人』(アドア出版)
『僕らにできる教育革命』(アドア出版)
『名古屋力 アート編』(ワイズ出版)  
『名古屋力 妖怪篇』(ワイズ出版) 
『妖怪インニューヨーク』(ワイズ出版)等                   

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