エクアドルの新婚夫婦銃撃事件

エクアドルの新婚夫婦銃撃事件
(僕もこの国で服を脱がされ銃を突き付けられた)

丘の上からビルカバンバを見下ろして
 1995年、僕は単身エクアドルにいた。そして3丁の銃が僕に向けられていた。所持品をチェックすると言う名目で、両手をあげズボンや上着を脱がされて震ってもいた。コンコルド山脈へ向かうアマゾン源流の村外れの街道でのことだ。
写真右上:丘の上からビルカバンバの村(アマゾン源流のある世界三大長寿郷の一つ)を見下ろして

 僕は小学校の5年の頃から老後のことや死について考えをめぐらす子供だった。年をとった老人は順に亡くなっていく。当時は自殺者も多く僕の周りで死はめずらしくなかった。人間にとって死は避けられない。いつその死がやってくるのか、死んだらどうなるのかなどとそんなことばかり考え、恐怖で夜もなかなか寝られなかった。でも、もし60歳以上長く生きることができたなら人生の最終勝負は60歳からだとも思っていた。僕の得意なものは美術と体育だったが、美術を選んだのもそのためだ。美術なら死ぬまで頑張れると思ったからだ。

 そんな死に対する恐怖心が強い僕が、何故エクアドルへ出掛けたのか。しかもちょうど僕が出かける直前、エクアドルとペルーの国境付近で戦いが勃発した。新聞の海外ニュース面(2頁目)のトップに載ったからかなり大きな紛争だった。今までもずいぶん危険な地域に出かけていても、気を付けてねぐらいで送り出してくれた家族も、今度ばかりは行くことに大反対した。調べるとちょうど紛争の起こっているあたりなのだ。僕も迷ったが結局行くことにした。1つには危険な地域に行って神経を全てそれに集中すると死の恐怖を忘れることができるということ。

おもしろ老後生活術
 もう一つは、当時僕は老後や長寿の研究をしており、エクアドルには世界3大長寿郷のビルカバンバがあるというのが大きな理由だ。長寿村は他にパキスタンのフンザ、グルジアのゴリだが、僕はこの3か所を全て取材しようと思っていたが、その最初の訪問先がビルカバンバだったのだ。(結局3か所すべてを訪問し、さらに真冬の北欧も訪問し、これらをまとめ、その後友人の女医と二人で老後の本も出版した。)
写真左:友人の女医との共著『おもしろ老後生活術』




 さてビルカバンバへは日本からテキサスのダラスへ、そこで飛行機を乗り換え、フロリダのマイアミへ、そこで1泊した後、飛行機でカリブ海を越えてエクアドルの首都キトへ、そこからエクアドルの地方都市ロハまで飛ぶローカル飛行機に乗り、ロハで1泊してから車でビルカバンバへ入った。当時日系のフジモリ大統領が治めていたペルーとエクアドルの間の戦闘の始まりで、日本人である僕はスパイと見なされる可能性が高く、行動を制限されたり、軽い高山病(標高2850m)にかかったりと大変であったが、やっとの思いでビルカバンバ村に着いた(この国に滞在中、日本人には一人も会わなかった)。
 着いてすぐにやったことは村の教会の前でボーッと座る老人たちのそばで休憩をとることだった。まず村の雰囲気を知りたいのと、ひょっとしてお年寄りたちとお友達になれるかもしれないと思ったことによる。それにここにいればまず安全でギャングや軍人等に襲われることはないと踏んだからだ。お年寄りたちは皆90歳以上と思われた。だが英語も通じず彼等との話は盛り上がらなかった。そんな中、通りかかった30がらみの男性が、僕に採りたてのみかんを食べないかと背負うザルから取り出して、近付いてきた。僕がみかんをもらったお返しにガムをあげたことで彼と親しくなった。
 1千人ほどの小さな村で、彼に各老人宅へ案内してもらうことになった。老人宅訪問の途中不審者として軍の3人のパトロール隊に僕は捕まった。村の後方にあるコンコルド山脈では金脈発見を巡ってエクアドルとペルーの戦いが始まっていて、この村には前戦の基地がおかれていた。
 パトロール隊員には「お前は日本人であり危険だ。村を歩くな。宿は村の外に取ってそこから出るな!いずれ調べに行く」と言われた。命令通り2、3日宿でじっとしていたがそれでは“長寿調査”の取材にならず、はるばる日本からつらい思いをしてやって来たことが無駄になる。そこで軍のいない山中に点在する民家を調査の対象にすることにした。調子に乗って民家を周りながら樹木に覆われた1メートルほどの山道を移動しているうちに、村の向こう側の戦場につながる4メートルほどの泥道に出てしまった。そしてふと下を見ると古木を道に渡して通行遮断している軍の検問所が目に入った。軍人たちも7,8人いるようだった。その一瞬事態の危険性を察した僕は、元の来た道へ引き返そうとしたが、もし僕がいることがばれていたら、後ろから狙撃されると思い、内心は恐怖でいっぱいだったが、あえて堂々とカメラをぶら下げ検問所方面に向かって坂道を下って行った。
 やはり彼らは僕の存在に気付いていて、バタバタと兵士たちが飛び出してきて、幾丁かの銃を突きつけ取り囲んだ。村から来たわけでなく戦場である山の上から来たのだから、フジモリのスパイと思われたのだ。万事休す、殺されるか、うまくいっても1か月ほどの牢獄は覚悟した。そこで3時間ほどシャツとパンツにさせられ検問を受けた。軍隊だから殺されないなどと僕は思ってはいない。だから僕は震えていた。(この2年後、この近くで軍隊に捕まった早稲田大生の二人が殴り殺され、持っていた現金100万円近くを奪われる事件が起きている)。この地方は軍もギャングも変わらないのだ。金を見れば彼らの気持ちは豹変する。

僕を救ってくれたおばさんと子供 僕が助かったのはまず現金としてドル札で100ドルほどしか持っていなかったことだ(あとはトラベラーズチェック)。さらに最大の助けは、大声でどなられ、銃でこづかれている最中、近くの1軒しかない民家から子連れのおばさんが様子を見に来てくれたことだ。このおばさんと子供には前日、宿近くで行きあい、日本から持ち込んだ紙風船をあげていた。
写真右:僕を救ってくれたおばさんと子供(後方)右は夫
 僕は思わず唯一知っているスペイン語で「アミーゴ!」と叫んでいた。彼女は昨日僕が村にいて、山の上から来たのではないことを証明してくれた。軍にとっては第三者が僕の存在を知ったことで僕を抹殺できなくなったし、また100ドル(1万円)では殺す意味もないからであろう。もし僕が大金を持っていておばさんが来なかったら確実に殺されていただろう。僕がスパイかどうかなんて大金を前にしたらどうでもいいのだ。僕は死にたくはないが危険な一人旅の折は覚悟をしている。今回ももし殺されず、誘拐された場合、妻には身代金を2000万円までなら出して救ってくれ、それ以上なら見捨ててくれていいと言い残して日本を出てきた。

中日新聞の僕の記事
写真上:中日新聞に載った僕の記事 1995年


 昨年末、このエクアドルで襲撃された新婚の二人は、海外の危険さを知らなさすぎたように思われる。僕はこれ以外にも海外旅行で2回、銃を突きつけられている。流しのタクシーを拾ったらまずトラブルになることぐらいは知っておかねばならない。新年早々のニュースは僕にエクアドルの旅を思い出させた。僕の旅の話が参考になればと思う。



 恒例の平成名古屋百鬼夜行の妖怪を今回も2匹紹介させていただく。今回の文が遠く離れた外国の話だったから妖怪も国内だが名古屋から比較的遠い所のものを2点選んでみた。

㉔ 妖怪「ジャンジャン火」  写真右
妖怪ジャンジャン火
 奈良の夫婦川では道行きで亡くなった男女の鬼火(火の玉)が2人が入水自殺をした日に、それぞれ葬られた別の寺から飛んできてこの夫婦川で出会い、川の上でラブシーンを繰り返し、またそれぞれの墓に戻って行くと言う。エンゼルを加えて可愛らしく描いてみた。
   







㉕「幽霊茸白竜草」
(尾張藩領、長野県白草山)
 写真下
幽霊茸白竜草


 尾張藩の直轄地、長野県白草山には幽霊茸とも称される白竜草が生えている。薄暗い木陰に白く透き通って、小さな竜のように並んで生えている。白い着物はお遍路や切腹の折に着る。だからこの草は異界を象徴し亡霊とも思われている。江戸の尾張藩邸では歴代の殿様の怪死が多い。白竜草はその亡霊とも思われている。
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お若い頃から世界を飛び回っていらっしゃったご様子、ハラハラドキドキしながら読まして頂きました!!次回はどんなお話なのか?楽しみにして居りま〜す。
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プロフィール

絵描きの山彊

Author:絵描きの山彊
山田彊一プロフィール
1964「ニューヨーク,日本人アーティスト14人展(最年少で選抜される。脇田和氏らと) 
1967 第6回シェル美術展(佳作賞)
1981 第3回中日美術展(大賞)
1982 第4回エンバ美術賞展(優秀賞)
1983 第5回宇部絵画トリエンナーレ展(優秀賞)
1984 第5回大阪現代版画コンクール展(優秀賞)
1985 第1回和歌山版画ビエンナーレ展(大賞)
1986 第2回IBM絵画コンクール(大賞)
1989 第11回エンバ美術賞展(準大賞)
1995 第1回中国・北京現代展(優秀賞)
1997 第8回大阪トリエンナーレ展(特別賞)
<著書>
『そして地獄・そして芸術』(ギャラリー安里)
『中学が爆発する』(風媒社)
『きしめん紳士が行く』(風媒社)
『ナゴ・ナラ』(アドア出版)
『おもしろ老後生活術』(黎明書房)
『ピカソはやっぱり名古屋人』(アドア出版)
『僕らにできる教育革命』(アドア出版)
『名古屋力 アート編』(ワイズ出版)  
『名古屋力 妖怪篇』(ワイズ出版) 
『妖怪インニューヨーク』(ワイズ出版)等                   

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