妖怪屋敷 第39弾 亀を飼う女性 妖怪をはぐくむ文化

妖怪屋敷 第39弾
亀を飼う女性が多いのは何故?
妖怪をはぐくむ文化的背景

 僕が教えているカルチャーセンターの生徒で、亀を20年以上に渡って飼っている女性がいる。以前子供が夜店で10円玉程の小亀を買ってきて、それが大きくなったというのだ。マンションのベランダで飼っているとか。子供はもうとっくに飼育放棄して後はお母さんのお仕事。毎朝ドアをあけると亀が首をのばし眼が合うという。一人と一匹の1日のコミュニケーションはたったこれだけ。その亀が今は15センチ以上になったという。20年に及ぶこの無言の対話。僕はもうこれだけで妖気を感じる。この20年間亀は何を思って飼い主を見ていただろう。幼稚園児だった頃に小亀を買った2人の息子は、東京の大学や企業に入り、もう家にはいない。この家の親子関係は非常に上手くいっているという。彼女はこの亀にわが子をダブらせているのかもしれない。
 「夏は臭いでしょう。世話も大変だろうから、何処かの公園の池にほってきたら」と今まで何度も言われたようだが、その気は全然ないそうだ。捨ててしまうと子供との思い出が消え、彼等との関係が崩れるかもと恐れているのだろうか。ちょうど浦島太郎が玉手箱を開いたら、突然老いてしまい厳しい現実世界に戻されたように、子供達との懐かしい日々が夢物語になってしまうとでも考えているのだろうか。しかし年をとって病気にでもなり亀の世話ができなくなるときのことも彼女は心配していた。
 浦島太郎のお話といえば、亀はこの物語の中でどのような役割をしているのだろう。ある学者の分析によると浦島太郎話の竜宮城は、自分の生家のことで、乙姫は母親を表していると解説する。母親の庇護が永い間続いて乳離れできず、やっと親から離れて世間に出て働こうとしたものの、世の流れについていけなくなって脱落してしまう。浦島太郎も楽しく快適な竜宮城生活をたち切って、一般社会へ戻ったものの、うまく適合できない。浦島太郎の物語は現代の若者にも当てはまるようだ。
 では浦島を竜宮城まで運んだり、現実社会へ戻したりする亀の役割は何なのか。僕が思うに、亀は母のいる家と外とのパイプ役ではないか。現代の若者にとって外とのパイプ役はスマホや携帯、ネットになる。母親が亀を捨てられないということは、息子との連絡用としてスマホや携帯を捨てられないということと同じなのか。スマホや携帯で子供との連絡を常に取っていれば、どちらも安心できるということなのだろう。

50cm程の亀と飼い主
 もう一人僕の後輩で、20歳以上年下のすごく美人のインテリ女性がいる。彼女は結婚して10数年になるが子供には恵まれずそんな中、昨年、50㎝程もある陸亀を3LDKのマンションで飼い始めた。犬や猫よりいいし可愛いという。子供のいない彼女にとって亀はどういった存在になるのか。子供に代わる存在であってほしいという願望なのか。
写真右:50㎝程の亀を飼う後輩
 亀を飼っているもう一軒は、妻の知り合いの大学の先生。新婚時代に二人で亀を買い、部屋の中でもう30年近く、放し飼いにしているという。今は大きくなって、子亀も入れ3匹になっているとか。「夜踏みつけることはないの?」と尋ねると、夜になればちゃんと部屋の隅にある水を張った寝床に帰るそうだ。彼女もインテリで子供がいない。
 一度亀を飼う人々の家庭を調べてみると、ある程度その傾向や思考も分かってくるのではと思うが。僕の考えでは、亀を飼う人は亀に安らぎや癒しを求めたり、寂しさの埋め合わせをしてくれることを期待しているのではないかと思う。それならよくある犬や猫でもいいわけだが、喜寿や長寿の象徴でもある亀は、より深い精神的な繋がり、ある意味で妖怪に通じるような‘気’で人間と結ばれるような気がする。そしてそのような繋がりを求めるのは男性よりも女性に多いような気が僕はしているのだが。

 さてベランダで亀を飼っているカルチャーセンターの教え子が亀を手放すことになった場合、どこなら安心して亀を引き取ってもらえるかを考えて、亀に関係する神社を調べてみた。名古屋には亀を祭る神社が東区の僕の母校である明和高校の直ぐ東にある。七尾天神社と言って亀が天神様のお使いだと標識に説明してある。僕が高校の頃、帰りに寄った時には亀がいたような気がしたが、今は1匹もいない。大きな亀の彫刻と小さな池がある。どうも亀は引き取ってもらえそうにない。天神様といえば牛の神社でもあり、牛にシフトして合格祈願で儲けようという魂胆からか、亀は見捨てられているようだ。
写真左:七尾天神社の亀彫刻と池                 写真右:七尾天神社の牛彫刻七尾の亀七尾天神社の牛像

川原神社の池
 それ以外に名古屋で亀を祭る神社はないが、昭和区の川原神社が亀でよく知られている。江戸時代から多くの亀がいて、江戸時代の「尾張名所図会」にも亀がたくさん描かれている。
写真右:川原神社池の上にある鳥居 この池に多くの亀がいる
 飼っていた亀をここに入れてやると江戸時代からの先輩にも会えて(鶴は千年亀は万年と言われるから)幸せになれるだろう。こう彼女に伝えておこう。この神社、水の神を祀り、この関係で亀も飼っているのだから火事にはならぬ筈だが、大戦で焼かれ、つい1992年にも不慮の火災で燃えている。この折教えている学校の4階から僕は火事を目撃していた。これも何か妖怪の縁なのか。

 日本人の心には、あらゆるものに霊が宿っているという観念がある。これを日本人は「物の怪」と呼んでいる。こういった考えから妖怪が生み出されるのだろう。これまでに日本で描かれた妖怪は、人間や狐や狸といった生物は当たり前として、石や木、箪笥や傘、硯箱や筆にまで霊が宿るとして絵にもなっている。
 2年ほど前、近くの家がパソコンの不始末で全焼し、家族6人のうち5人が焼死してしまった。その土地は縁起が悪いということで生き残ったおばあさんが、半値近くで売りに出したことがあった。日本人は何となく気味悪く、安くても手を出さなかったようだが、しばらくしたら買い手がついた。どうも外国人が買ったらしいとの噂が入った。日本人だと亡くなった人の霊もそこに漂っているように思い、安くても飼うのに躊躇するが、そういう考え方、文化的背景が無い外国人なら気にしないのだろう。
 朝鮮半島では第二次大戦やその後の朝鮮戦争で多くの人が無残に殺されたが、半島の住民は殺された恨みは持っていても、そのことで恨みを持った死人が幽霊や妖怪になって存在しているということは信じない。この霊がつくという思考は、中国や韓国等アジア系の民にはあまりないらしい。そういえば日本で浮世絵や好色本などに見られる幽霊や妖怪絵が韓国や中国ではほとんど見られない。箪笥や布団、楽器や茶器が妖怪になる絵はまずない。
 それは何故であろうか。周りを海に囲まれた農耕民族の島国日本と騎馬民族の広大な大陸の違いが背景にあるような気がする。農耕は気候によって大きく左右される。気候は神様がそして目に見えない霊や妖怪が係わっていると人々は考えた。豊かな水をもたらしてもらいたいときに人々は龍神さまに雨乞いをする。森の木の実も川の魚も神様のもたらしてくれる自然の恵みである。自然(=神様)の恩恵があってはじめて人々は生きてゆける。あらゆるものに神が、精霊、妖怪が宿ると考えるのはごく自然な成り行きであった。一方大陸では人々は厳しい自然を相手に食料を得るために自ら狩猟をおこない、自然の恵みを待って食料を得る生活ではない。また陸続きのため何時他民族に襲われるかもしれない。身の回りの生き物や道具に霊が宿って恵みをもたらしてくれると考えるより、自らの力で食料を確保し、敵に立ち向かわなければならない。
 島国と大陸の違いではないが、アフリカ大陸で妖怪面が作られるのは、比較的気候が穏やかで、食べ物が豊富なサバンナ地方である。雨が降らない砂漠地域や常に暑く雨が多い熱帯雨林気候の民族はお面を作る習慣があまり無いという。それだけ自然との対話とか観察をするゆとりや必要が無いのだろうか。
アフリカサバンナ地方の妖怪のお面制作と、日本の多くの妖怪文化はそんな共通点があるのかもしれない。


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プロフィール

絵描きの山彊

Author:絵描きの山彊
山田彊一プロフィール
1964「ニューヨーク,日本人アーティスト14人展(最年少で選抜される。脇田和氏らと) 
1967 第6回シェル美術展(佳作賞)
1981 第3回中日美術展(大賞)
1982 第4回エンバ美術賞展(優秀賞)
1983 第5回宇部絵画トリエンナーレ展(優秀賞)
1984 第5回大阪現代版画コンクール展(優秀賞)
1985 第1回和歌山版画ビエンナーレ展(大賞)
1986 第2回IBM絵画コンクール(大賞)
1989 第11回エンバ美術賞展(準大賞)
1995 第1回中国・北京現代展(優秀賞)
1997 第8回大阪トリエンナーレ展(特別賞)
<著書>
『そして地獄・そして芸術』(ギャラリー安里)
『中学が爆発する』(風媒社)
『きしめん紳士が行く』(風媒社)
『ナゴ・ナラ』(アドア出版)
『おもしろ老後生活術』(黎明書房)
『ピカソはやっぱり名古屋人』(アドア出版)
『僕らにできる教育革命』(アドア出版)
『名古屋力 アート編』(ワイズ出版)  
『名古屋力 妖怪篇』(ワイズ出版) 
『妖怪インニューヨーク』(ワイズ出版)等                   

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