ゴッホの真実

「ゴッホ展で爆弾騒ぎ」―ルパン三世の影響?―

 2月21日の3時から名古屋市美術館で『ゴッホ展』のオープニングがあった。3時少し前に私が着くと、警察官がとんできて「館内に爆弾をセットしたという電話が入ったから、近付かないでください」と止められた。見ると既に入っていたらしい招待客も美術館のスタッフも外に出され、遠巻きにして成り行きを眺めていた。テレビではこんな情景を多く目にするが体験するのは初めてだ。そしてすぐ名画を盗むルパン三世を連想した。館内を空にしておいて爆弾処理班に化けたルパンがまんまと数十億円の名画を盗む場面だ。これが本当に起これば世界ニュースになり、名古屋市美術館も河村たかし以上に知れ渡るぞと、不謹慎な連想を巡らせた。

 そんなことを考えながら、入館を待つ仲間の画家たちに私は合流した。公募展のA氏が「現代美術をやっている誰かがいたずら電話をしたんじゃないか、ゴッホと自分たちの差がありすぎるから」とやじった。「違う、公募展作家だよ。館側に無視されているから。」現代美術をやっている芸大教授がやり返した。まあ教授の方に説得力があった。この土地の美術館に学芸員がおかれるまでは公募展作家が中心になって全ての美術運営を仕切り実権を握っていた。ところが学芸員制度ができてからは蚊帳の外の存在になった。だからその恨みがあるというわけだ。「それを言うなら日展の連中ではないの?ものすごい観客を集めて先日も展覧会を終えたばかりなのに、市の美術館側は公募展作家以上に鼻もかけないから」と誰かが次なる犯人説を出した。
 この事件のため開会式は50分も遅れて始まった。皆が「明日の中日新聞に大きく掲載されるぞ」と言い合っていたが、翌日の中日新聞には一行も触れられていなかった。載せれば観客も1、2割はアップしたのに。しかしこれは新聞社側のもう一つの読みがあったのであろう。これをニュースにすると、真似をしてまた電話をする輩が出る可能性があると踏んだのではないか。

 さて、この芸術家ゴッホは、美術をやる者にとってはどのような存在なのだろうか。名古屋芸術大学で出会った東京芸大卒の半プータローの現代美術作家は周囲の教授連に「貧乏学生に高い月謝を払わせ、そこから給料をもらって、教授の看板で作品を売る、これは真の芸術家ではない。ゴッホのように、自分を売り込まず黙々と謙虚に作品作りをするべきじゃないか」と大声で作家論を展開していた。このころは、イタリア画家の作品を真似て描き、全国に盗作作家として知れ渡ったあの和田義彦教授が実権を握っていたころで、彼に対する揶揄もあったのだろう。
 「画家は貧乏が当たりまえ。変に名声を求めて自分を売り込むべきじゃない」は、写真機発明以後のアート心情のように思われている。そして食べられない多くの芸術家が今も誕生している。彼らの憧れる代表格がゴッホであるのだ。だから東京芸大卒の彼もゴッホの生き方を錦の御旗にして教授へ自分の怒りをぶつけたようだ。彼は盗作事件当時、テレビにまで出て和田教授の悪行を述べていた。
ゴッホ自画像

 ところでこのゴッホ、いろいろ史実を調べていくと、一般人が思うような無欲な画家ではない。どうにかしてお金を稼ごう、どうにかして歴史に残ろうとありとあらゆる手を打っていた。お金持ちの画家ロートレックが彼の家でパーティーを開くと、ゴッホは自分の作品を持って早目に出かけ、ロートレックの作品の際に並べて、誰かが気に止め購入してくれるのを願っていた。パーティーが終わると、またこっそりと持ち帰るのだ。こんなことはまず普通の精神ではできることではない。それぐらい生き残るのに必死だったのだ。
 ゴッホが若いころ勤めていて首になったギャラリーへは、恨みがあるはずなのに毎年のように挨拶状や作品見本を送り付けていたという。ギャラリー側は汚いものでも見る感じで、すぐ捨てていたとか。ゴッホは少しでも自分と関係がある人たちにすがり、お金を儲け認められたかったのだ。
 こんなに必死に生き残ろうと頑張る芸術家など、今の若い芸術家には皆無となってしまった。ゴッホを勝手に解釈し、何もしなくても誰かが自分に援助してくれるのを夢見ている。死後には評価されるかもと想像したりする。
そうではない。生きている間に、必死に描き続けた結果だ。ゴッホ展の作品をこんな観点から観るのも面白いと思う。
写真上:今回のゴッホ展の代表作<自画像>時価数十億円




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No title

あっ、山彊先生もあの場にいましたか?僕も遅れて参加したのですが、仕事の都合で4時半には職場に戻らなければならなかったため、結局、セレモニーの途中で帰りました・・・。爆弾騒ぎ、報道されませんでしたねえ・・。マスコミ各社もいろいろあるんで・・。
何はともあれ、名古屋の人はゴッホが好き!会期の後半はメチャ混雑が予想され、絵を見に来てるんだか人を見に来てるんだか分からない?状況になること間違いなしです!
皆さん、できるだけ会期の前半、それも平日か金土曜日の6時過ぎ(金土曜日は8時までやってます!)がおススメです!どうぞお出かけください!
カウンター(since2011.1.1)
プロフィール

絵描きの山彊

Author:絵描きの山彊
山田彊一プロフィール
1964「ニューヨーク,日本人アーティスト14人展(最年少で選抜される。脇田和氏らと) 
1967 第6回シェル美術展(佳作賞)
1981 第3回中日美術展(大賞)
1982 第4回エンバ美術賞展(優秀賞)
1983 第5回宇部絵画トリエンナーレ展(優秀賞)
1984 第5回大阪現代版画コンクール展(優秀賞)
1985 第1回和歌山版画ビエンナーレ展(大賞)
1986 第2回IBM絵画コンクール(大賞)
1989 第11回エンバ美術賞展(準大賞)
1995 第1回中国・北京現代展(優秀賞)
1997 第8回大阪トリエンナーレ展(特別賞)
<著書>
『そして地獄・そして芸術』(ギャラリー安里)
『中学が爆発する』(風媒社)
『きしめん紳士が行く』(風媒社)
『ナゴ・ナラ』(アドア出版)
『おもしろ老後生活術』(黎明書房)
『ピカソはやっぱり名古屋人』(アドア出版)
『僕らにできる教育革命』(アドア出版)
『名古屋力 アート編』(ワイズ出版)  
『名古屋力 妖怪篇』(ワイズ出版) 
『妖怪インニューヨーク』(ワイズ出版)等                   

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