『名古屋妖怪三十六景』より ㉘㉙

『名古屋妖怪三十六景』より ㉘㉙

 これまで尾張徳川藩主の落ち延び街道沿いや、当時名古屋一の繁華街であった大須の妖怪を取り上げてきた。今回は八事興正寺付近をあぶり出したいと思う。ここ八事は徳川の本拠地、岡埼、駿河への最短コースで名古屋の南東の玄関と言っていい。辺りは丘陵地帯で水の便が悪く、稲作には適していないため住みづらいが、大きな寺社を作るには土地獲得がしやすく最適であったかもしれない。石も多く妖怪にもそれが反映している。1808年に建てられた五重塔は市内で唯一の五重塔で国の重要文化財でもある。

㉘妖怪「未来のぞき」
出現場所:八事興正寺付近


 高野山の末寺、八事興正寺は1688年、尾張徳川家2代藩主光友が建立した。その後ここはこの界隈の住民の憩いの場となり縁日には今でもにぎわっている。そんな人々の愛着がこの寺に「興正寺七不思議」なるお話を生み出したようだ。この寺をより面白くしようと僕のような者が江戸時代にもいて考え出したのであろう。

 その7つとは、金属音の出る九品仏、寺の東北奥にある大日如来堂の乳首のない仏像、珍しい干支廻りの宝塔、海の干満差に合わせ水量が変化する石碑。さらに雷が落ちない、神聖な境内のため蜘蛛の巣が張らないとあるが、この二つはどうも怪しい。蜘蛛の巣も張り、雷も落ちている。建立当初は立木も低く、草花や庭木の手入れが行き届き、雑草等が繁殖していなかったから蜘蛛も見られなかったのであろう。

姿見の閼伽井戸 
 最後が五重の塔の直ぐ西隣にある「姿見の閼伽(仏に供える聖水)井戸」で、この井戸を覗くと自分の未来が分かるという。
写真右:蓋をして見られなくなっている姿見の閼伽井戸
 井戸を覗けば勿論水面に自分が写る。その像が元気に映っていれば今後の人生は幸せで、弱々しく映れば今後何かトラブルが起こると言われる。興正寺の聖水となれば神秘性があり信じられやすい。これを考えた人には拍手喝さいを送りたい。神社で引くおみくじのようなもので誰でもが試したくなる。人間弱っていれば弱々しく見えるものだし、高齢で死が近くなれば目もボケて姿が見えにくくなる。ごく当たり前なことだが、人々はよく当たると思ってしまう。7不思議の創案者はこの井戸の使い方の面白さに気付き、他の6不思議を考案して付けたし興正寺での楽しさを増やしたのではないか。

 今は井戸も枯れ、竹の蓋で覆われ覗けないが、その代わりにお札事務所の前に30cm平方の小さな大理石の井戸を作り、蓋の真ん中にあけた直径5cmの覗き穴から参拝客にのぞかせている。しかしこの小さな穴からでは顔の一部しか見えないし、何よりも大理石では古井戸の風情がない。残念だ。

 僕が考えた「妖怪 未来のぞき」は顔が二つあり、一つは赤い元気な顔、もう一つは青く病気がちだ。元気な赤い方は井戸に映る閻魔もへっちゃら、青い方は井戸の中の仏様に助けを求めている。


㉘妖怪「未来のぞき」

妖怪未来のぞき


㉙「八事叩きのっぺら」
出現場所:興正寺内東北の一隅


 八事、興正寺の山門を過ぎ東北の小山へ200mほど登ると、見晴らしのいい、石仏群のエリアに入る。その道が十字路になったところのくの字の部分に4体と5体に分かれた九品仏の石仏(前述した七不思議の一つ)が安置されている。全ての顔が少しづつへこんで目鼻のないのっぺらぼうのようになりかかっている。その中で、右から2番目の石仏はのっぺらぼうどころか、お椀のように完全に内側に陥没している。この石仏の前には拳ほどの石が数個置いてある。どうもこの石で叩けということらしい。この石仏は石でできているのに石で叩くときれいな金属音がする。この異常なへこみ、数百年にわたって叩かれた結果なのだろう。

 目や鼻のないのっぺらぼう話は結構ある。恋川春町の黄草子、小泉八雲の怪談、古くは源氏物語の「手習」の文の中にも登場する。のっぺらぼうは皆、脅すだけで悪さはしないお化けだという。

孫が石で石像を叩く
 先日写真を撮るために孫二人を連れて、またここを訪れた。孫たちと叩いてみると、やはりきれいな澄んだ金属音がした。
写真右:石仏を石で叩く孫
 すると突然孫が、顔の部分がへこんだ石仏を見て「僕の顔が入るかな。入れたらいいことあるかな?」と言い出した。自分の顔がまだ小さいからだろうが、僕はこの面白い発言にびっくり。仏様は常に上から見下ろして人間に何かをかなえてやるという雰囲気なのに、仏様の顔に人間の顔をうずめるなんてものすごい発想だ。この合体で何かが起きれば、人面はめ込み妖怪といってもいい。信者が仏と同化するわけだ。仏様が凹で人が凸になる。どんなご利益があるのだろうか。

 待てよ。本当はこの石仏は、人間がここに顔をうずめて振り返ったらその顔をのっぺらぼうにしてしまう妖怪なのかもしれない。僕が顔を突っ込み、のっぺらぼうの顔を孫に見せたらどうなるだろうか。こんな悪戯のできる妖怪がいてもいい。そんなことを考えて今回は妖怪「八事叩きのっぺら」を描いてみた。


㉙「八事叩きのっぺら」

八事叩きのっぺら
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プロフィール

絵描きの山彊

Author:絵描きの山彊
山田彊一プロフィール
1964「ニューヨーク,日本人アーティスト14人展(最年少で選抜される。脇田和氏らと) 
1967 第6回シェル美術展(佳作賞)
1981 第3回中日美術展(大賞)
1982 第4回エンバ美術賞展(優秀賞)
1983 第5回宇部絵画トリエンナーレ展(優秀賞)
1984 第5回大阪現代版画コンクール展(優秀賞)
1985 第1回和歌山版画ビエンナーレ展(大賞)
1986 第2回IBM絵画コンクール(大賞)
1989 第11回エンバ美術賞展(準大賞)
1995 第1回中国・北京現代展(優秀賞)
1997 第8回大阪トリエンナーレ展(特別賞)
<著書>
『そして地獄・そして芸術』(ギャラリー安里)
『中学が爆発する』(風媒社)
『きしめん紳士が行く』(風媒社)
『ナゴ・ナラ』(アドア出版)
『おもしろ老後生活術』(黎明書房)
『ピカソはやっぱり名古屋人』(アドア出版)
『僕らにできる教育革命』(アドア出版)
『名古屋力 アート編』(ワイズ出版)  
『名古屋力 妖怪篇』(ワイズ出版) 
『妖怪インニューヨーク』(ワイズ出版)等                   

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