YOKAI (妖怪) in New York 第26話 ライオンキングの祖霊

YOKAI (妖怪) in New York
第26話 ライオンキングの祖霊

ライオンキングの看板が見えるタイムズスクエア風景(山田画)
 マンハッタンにあるタイムズスクエアは巨大なディスプレイやネオン、電光看板に囲まれた世界屈指の繁華街。その中央の交差点は世界の交差点とも言われ、年間5千万人が訪れるという。そのド真ん中にあり目を引くのが、現在ミンスコフ劇場で催されているミュージカル『ライオンキング』の看板だ。現在といったがこのミュージカル、1997年に初演されて以来、ずっと続いており今でも連日1621席が満席だという。
 僕も近頃はニューヨークへ行くとまずタイムズスクエアへ寄り、世界の交差点を実感して、精神を高揚させてから他へ回る。今回はこの気持ちを日本でも確認したいと思い、ここの風景を水彩画やシルク版画にしてしまった。
写真右上:僕の描いたタイムズスクエアの水彩画

 僕は美大1年生のときは別にして、風景水彩画を自分から描こうと思ったことはなかった。またきれいな緑あふれた風景ならいざ知らず、超現代都市風景が絵になるなんてかつては思ってもいなかった。けれど今回はこの雑踏を描きたくなった。「これは妖怪が僕に描かせようとしているぞ」と思って素直に従うことにした。ライオンキングの黄色と黒の大きな仮面のような看板は周囲のビルや交通標識を取り仕切っているように見える。それは僕が何回も旅したアフリカでの思いを蘇らせるからだろうか。

わが家にあるアフリカで手に入れた動物仮面
 アフリカでは宗教的儀式や儀礼の折、仮面をかぶって踊ることが多い。
写真左:わが家にあるアフリカで手に入れた動物仮面
 仮面をかぶることによって人は祖霊(先祖の霊)に変身する。彼はもはやこの世の人間ではなく、かといってあの世の人間でもない。仮面をかぶったものは死の世界と現世の狭間、喪の空間に存在し、彼が踊ることによって喪の空間を創り出している。お祭りはにぎやかで楽しいけれど、どこかに寂しい夢幻が漂っている気がするのは死の世界と現世界がまじりあっているからだろう。ニューヨークのこのタイムズスクエアがにぎやかなのはその二つが混在するような錯覚に落ちるからではないだろうか。僕も観光客もそのお祭り的興奮を求めて集まる。

ミンスコフ劇場の入り口付近
 先日もニューヨーク滞在中に、僕はまたこの場に来ていた。なにげなくふらりと看板の裏側にある劇場の正面に廻ったら、ロングミュージカル『ライオンキング』の開演15分前という看板と数枚のキャンセルチケットがあるという呼び出しがあった。それにつられて入ってみることにした。写真右:ミンスコフ劇場の入り口付近
 「ここに入っても妖怪に出くわすはずがない。お金が無駄だ。どうせパリのリドに入った時のように寝てしまうだろう」と思ったが影なる妖怪に押されるように入ってみた。キャンセル席だから前列の10番目ぐらいの見やすい席であった。だがやはり寝てしまった。1日中歩き疲れたことと、ほどよい暖房、柔らかな座席はどうぞお休みくださいと言わんばかりだ。

開演前の劇場内
 でもあれだけの高額な金をとるなら僕たち年寄りを寝させない演出がほしいと思った。舞台上ではカラフルな色と動きあるストーリーが展開されても、見せられるだけで僕にはあまり感動がなかった。様々な新しい技術の進んだ昨今なのにその技術が使われていない。例えば座席に仕込まれた穴から動物の匂いが伝わったり、サイやカバが現れたら座席に振動を与えたり、鳥が飛んだら紐のついた竹竿をグルグル役者が回すだけでなくマジックミラーのように鳥の影でも全客席へ飛ばしたらどうだろうか。子供やおばさんは興奮していたがオペラの演出や舞台装置の経験がある僕には不満だった。
写真左上:開演前の劇場内

 けれどまあ、仮面劇であるため、死霊が踊っていると思えばその意味での迫力はあるし面白いと悟った。やはりタイムズスクエアでやるのに最適の出し物ではないかと思う。逆にこの看板や仮面劇がなかったらここタイムズスクエアの面白さは半減するに違いない。それに劇団員たちは休み時間を利用して地下鉄に乗り、その列車内で舞台の一部を再現したり、欧州公演を終えて帰る途中の機内で、出発を待たされている間、他の乗客にライオンキングの主題歌を突然アカペラで歌ったりしたと聞く。サービス精神がとても旺盛なようだ。こういった突然のハプニング的なことは、不意に妖怪が現れたような驚きを人々に与えたのではないだろうか。
劇場内の大きな便器
 また劇場内での休憩時間にトイレに行って便器を使った折、その大きさにびっくりした。大便のために座ったらお尻ごとはまり込んでしまうのではないかと思ったほどだ。ライオンキング妖怪が使うものなのかしらん?
写真右:劇場内のトイレの便器


 タイムズスクエアを日本の街に例えるなら、江戸時代に一番賑やかだった浅草観音の境内のようなところだったと僕は思う。お寺があり、芝居小屋やお化け屋敷もあって、幽霊や化物が出現したり、茶屋があったり飯盛り女もいて、当時ここを訪れた人々はこのタイムズスクエアと同じ感激に浸ったに違いない。ここタイムズスクエアは1960年代から1990年代は娼婦やポルノショップ、好色映画等がある風俗街であった。今でもお祭り的な話題は尽きない。大晦日にはここでカウントダウンが行われ、いつも70万人ほどの人でにぎわうという。祝い方は違うが1年の終りの記念として行われる日本の除夜の鐘と似ているところもある。

タイムズスクエアの巨大広告ディスプレイ
 先日の新聞によると2007年にこの近くにオープンしたリブリー博物館では19世紀に作られたという「吸血鬼退治キット」が2500ドルで売りに出されたという。「干からびた首」も出されたらしい。お祭りの化物小屋のようなものだ。またここではあのマドンナが「私はこの世界で神より有名になってやる」と誓ったそうだ。その近くには世界一の広告用ディスプレイもある。(写真左)高さ23メートルで幅が100メートル、2380万個のLEDを使った4Kのものであるという(これ三菱電気製品であるとか)。
 
エルモ
 この周辺には縫いぐるみをかぶった妖怪もどきがわんさと出て、旅行客に自分達の写真を撮らせお金を得ている。その中心は頭に大きな目玉を付けた「妖怪エルモ」だ。(写真右)
 しかし中には恐喝並のエルモもいて警察は規制に乗り出した。この規制の始まった日は2014年7月26日だという。

東海道四谷怪談
 これは僕が妖怪本『名古屋力・妖怪篇』を出したちょうど1年後であり、またこの7月26日は日本では「幽霊の日」とも言われている。というのは1825年7月26日に江戸の中村座で鶴屋南北作「東海道四谷怪談」が初演されたからだ。
写真左:東海道四谷怪談の浮世絵(歌川国芳画)
 なんとも不思議な偶然だ。とにかく雑多で猥雑なごった煮のようなものがおどろおどろしくひしめいているような空間が大都会ニューヨークに存在することがとても楽しい。




<ニューヨークの妖怪シリーズ> 
 
さて今回も上記の話に因んだ僕のオリジナル妖怪画を紹介したい。

祖霊ライオンスクエア
㉖ 『祖霊 ライオンスクエア』

 祖霊の名の通り、人がライオンの仮面をかぶったところを描いたものだが、仮面をかぶったことにより、当然彼はあの世とこの世の中間に位置する存在となっている。この祖霊はタイムズスクエア一帯を支配しているので、その名もライオンスクエアと名付けた。タイムズスクエアの妖怪らしく賑やかなものにしてみた。

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プロフィール

絵描きの山彊

Author:絵描きの山彊
山田彊一プロフィール
1964「ニューヨーク,日本人アーティスト14人展(最年少で選抜される。脇田和氏らと) 
1967 第6回シェル美術展(佳作賞)
1981 第3回中日美術展(大賞)
1982 第4回エンバ美術賞展(優秀賞)
1983 第5回宇部絵画トリエンナーレ展(優秀賞)
1984 第5回大阪現代版画コンクール展(優秀賞)
1985 第1回和歌山版画ビエンナーレ展(大賞)
1986 第2回IBM絵画コンクール(大賞)
1989 第11回エンバ美術賞展(準大賞)
1995 第1回中国・北京現代展(優秀賞)
1997 第8回大阪トリエンナーレ展(特別賞)
<著書>
『そして地獄・そして芸術』(ギャラリー安里)
『中学が爆発する』(風媒社)
『きしめん紳士が行く』(風媒社)
『ナゴ・ナラ』(アドア出版)
『おもしろ老後生活術』(黎明書房)
『ピカソはやっぱり名古屋人』(アドア出版)
『僕らにできる教育革命』(アドア出版)
『名古屋力 アート編』(ワイズ出版)  
『名古屋力 妖怪篇』(ワイズ出版) 
『妖怪インニューヨーク』(ワイズ出版)等                   

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