YOKAI (妖怪) in New York 第33話 ブルックリン美術館のレッド・ドラゴン

YOKAI (妖怪) in New York
第33話 ブルックリン美術館のレッド・ドラゴン

ブルックリン美術館
 ブルックリン美術館を見学した時に、館内から迫りくるこの異次元の異様な恐ろしさは何だろうか、と思ったことがある。歩いているとぞーっとして寒気ボロが出てくるのだ。こんな体験を思い出したので、ニューヨークの妖怪話はここブルックリン美術館を最終章にして締め切ろうと決めた。写真右:ブルックリン美術館全景

 ブルックリン美術館はニューヨークで2番目に大きな美術館で150万点の作品を所蔵しているといわれる。1階のフロアーはアフリカやオセアニアの不気味なお面や彫刻群が占める。これ等が僕に次々と語りかけてくる。

仮面作品1 仮面作品2
写真上:訴えかけているような仮面たち

 我が家の応接間にもアフリカや東南アジアなど世界各国で僕が手に入れたお面がたくさん飾られているが、旅行者として手に入れたお面はやはり観光土産に過ぎないと思い知らされた。ここのお面や彫刻はわが家の物とは全然違って、息づいて語りかけてくるのだ。

仮面作品3仮面作品4
 作り方に手が混んでいて、人髪や猛獣の毛皮といったものを多く使用している。古そうで手荒く使えば崩壊しそうなものもあるし、儀式で使われたようなものもあった。
写真左:口から尾を出している仮面
写真右:毛が絡みあったような作品

 それらは僕がこれらの村や街を旅行者として歩いても決してお目にかかれないもので、人間の見てはならない暗部を抱え込んだようなお面や彫刻群だ。それらが僕に「お前は誰だ」と問いかけてくる。暗くて重く、そこから逃げるべきか留まるべきかを僕に迫っているように思えた。

 半世紀以上前、僕が生きることに追い込まれた時に描いた作品『餓鬼草子(太郎と花子)シリーズ』をここに並べてみたくなった。この作品なら少しは彼らと同居できるかもと。

赤い灯油ポリ容器の作品銃や弾丸などを使った人間像
 同じことをアフリカの現代作家も思ったのか、ここには感動すべきアフリカの現代作品も隣に並べられていた。一瞬古そうで数百年は経っているように見えたが、すぐに現代の作品であることが分かった。今しかない材料を使用していたからだ。僕がケニヤへ行った時、街中で幾度も見かけた赤い灯油のポリ容器を切って使用し、この世のものでないユニークな顔を作ったもの(写真左上)や廃棄されたらしい銃や弾丸等を連ねた人間像(写真右上)が、他の古い作品群に溶け込んで展示されていた。

 ここでは時代を越えて悪霊や善霊が生きづいているようだ。ニューヨーク自然史博物館が古代の怪獣や妖怪たちの眠っている墓場とすると、ここは妖怪の箪笥で、どこを引き出しても出番を待っている妖怪が待機しているように思える。

巨大なレッド・ドラゴンと日をまとう女
 そんな中、思いだしたことがある。映画『レッド・ドラゴン』(2001年)に登場するウィリアム・ブレイクの描いた『巨大なレッド・ドラゴンと日をまとう女』の作品も、ここの美術館の所蔵だったということだ。
写真右:ウィリアム・ブレイク作『巨大なレッド・ドラゴンと日をまとう女』 トマス・ハリス原作の『羊たちの沈黙』や『ハンニバル』の次に発表された映画『レッド・ドラゴン』は前記した絵が重要なキーアイテムとして登場する。龍と人間が混ざりあい、蝙蝠のような羽と巨大な多頭、長い尾を持った怪物レッド・ドラゴンが、恐怖に怯える女性を見てさらに興奮し、自らの欲望をまさに満たさんとしている。この悪の権化として絶対的優位に立つレッドドラゴンの姿が、弱く屈折した自己に矛盾を抱える殺人鬼の精神を支配してゆく。

映画『レッドドラゴン』のポスター
 映画はこの絵柄を背中に入れ墨をした殺人鬼が、その刺青に導かれるように殺人を繰り返す姿を追う。五部門のアカデミー賞をもらった前作の『羊たちの沈黙』を越えると言われる迫力で見る者に迫る。
写真左:映画『レッドドラゴン』のポスター
 これは『ヨハネの黙示録』の一部を参考にしているという。幸せそうな婦人に復讐を迫る狂気の主人公は殺した夫や子供の目にその家のトイレの鏡を割ってはめ込み、彼の欲するレッド・ドラゴンへの変身と再生を図る。その死人の前で妻でもあり母でもある女を犯すのだ。最後にこの吸血鬼のような(殺すときは喉や口にくらいつく)殺人鬼はブルックリン美術館に行き、館員に頼んで、紙に描いた水彩画である本物の『巨大なレッド・ドラゴンと日をまとう女』作品を出してもらい、彼らの目の前でそれを食べてしまう。この時点で彼は完全にレッド・ドラゴンと一体化したのだ。

 この作品を先回この美術館で、僕は見つけることが出来なかった。展示してないのは、この映画の殺人鬼のように、この絵に影響され事件を起こす人間が現れてはいけないと危惧したのだろうか。(現在はこの作品、決められた日にしか展示されていないという。まあ大きな美術館で収蔵品も多いから同じ作品が常に展示されていないのは当然のこととも言えるが)。
バスキア
 ブルックリン美術館はニューヨークの中で、メトロポリタンに次ぐ大きさで、日本の村上隆やエイズで亡くなった落書きアーティストのキース・へリングなど、まあそれぞれ普通でない画家たちがここで個展をしている。現在(2015年)はこれもグラフィティーアートからスタートしたブルックリン生まれで薬物中毒で亡くなったバスキア(写真右)の個展が8月まで行われている。また以前にもこのブログで書いたあのクトゥルー神話のラブクラフトもブルックリンに住んでいた。

 ニューヨークの妖怪の住処を大きく区分けすると、ビジネスマンや観光客が多いマンハッタンには日本でいうところのちょっぴり面白い化け物タヌキや狐といったいわゆるお化け的な妖怪が目立ち、ブルックリンに住みついているのは人の怨念から作られる行燈の油をなめる化け猫的幽霊が多いように思われる。簡単に言えば、陽気な妖怪と陰気な妖怪といえば分かりやすいかも。ニューヨーク警察の発表によるとマンハッタンは今、ほとんど殺人事件が無く、ニューヨーク州の殺人の多くがこのブルックリンであるという。このことは人間の恨みや怨念がこのエリアには渦巻いていることを証明しているのではないか。

ブルックリン橋に止まっているパトカー
 そしてそのマンハッタンとブルックリンを繋いでいるのがブルックリン橋。この橋は夜になると霊が出るとも言われ自殺の名所であり、犯罪件数も地下鉄と自由の女神に次いで多いという。舗道は幅が3メートル程しか無い吊り橋なのにパトカーが中央に待機していることが多い。

写真左:ブルックリン橋の舗道に止まっているパトカー

<ニューヨークの妖怪シリーズ>

 さて今回も上記の話に因んだ僕のオリジナル妖怪画を紹介したい。

㉝ 『ブルックリン・ドラゴン』

ブルックリン・ドラゴン
 目が横に付いたのこぎり状の歯を持ち、大きな男根にはまた目や口があり、足までついている。思考の決定権はこの男根にあるようだ。その上にある体の中央には女陰が収まり、雌雄同体のような妖怪にもなっている。普通鼻は男根に例えられるがここでは女性の臀部に置き換えてみた。マンハッタンに対してブルックリンには陰気な妖怪が住んでいると上に記したが、このブルックリン・ドラゴンは男性優位の暗い支配的な妖怪ではなく、両性具有の妖怪にすることによってカラフルで陽気なマンハッタン的要素をも合せ持つ妖怪に仕上げてみた。

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プロフィール

絵描きの山彊

Author:絵描きの山彊
山田彊一プロフィール
1964「ニューヨーク,日本人アーティスト14人展(最年少で選抜される。脇田和氏らと) 
1967 第6回シェル美術展(佳作賞)
1981 第3回中日美術展(大賞)
1982 第4回エンバ美術賞展(優秀賞)
1983 第5回宇部絵画トリエンナーレ展(優秀賞)
1984 第5回大阪現代版画コンクール展(優秀賞)
1985 第1回和歌山版画ビエンナーレ展(大賞)
1986 第2回IBM絵画コンクール(大賞)
1989 第11回エンバ美術賞展(準大賞)
1995 第1回中国・北京現代展(優秀賞)
1997 第8回大阪トリエンナーレ展(特別賞)
<著書>
『そして地獄・そして芸術』(ギャラリー安里)
『中学が爆発する』(風媒社)
『きしめん紳士が行く』(風媒社)
『ナゴ・ナラ』(アドア出版)
『おもしろ老後生活術』(黎明書房)
『ピカソはやっぱり名古屋人』(アドア出版)
『僕らにできる教育革命』(アドア出版)
『名古屋力 アート編』(ワイズ出版)  
『名古屋力 妖怪篇』(ワイズ出版) 
『妖怪インニューヨーク』(ワイズ出版)等                   

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